ガス,水道などのライフライン供給や空調などに用いられる配管設備のメンテナンスは人類が直面する大きな問題の一つとなっています。特に,地下や高層ビルに設置されたものについては,外から点検することが困難なため,老朽化したパイプの特定に大幅なコストと時間を要します.一般的な配管検査において,これまで市販の工業用内視鏡が用いられてきました.しかし,多くの配管にはベンドやエルボーと呼ばれるたくさんの曲がりやチーズと呼ばれるT字の分岐が含まれています.従来の工業用内視鏡の場合,このような経路ではせいぜい2~3箇所の曲がりしか通過できませんでした.そのため,複数の曲がりやT字分岐を通過できる自走式ロボットによる配管内検査に期待が集まっています.

立命館大学が開発したロボットは、角度制御とトルク制御の両方が可能な中央関節,2つのバネによる受動関節、前進後退を行うための3つのオムニホイール,ロール回転(進行方向周りに転がる動作)するための2つの球状車輪で構成されています.曲がりの通過を関節トルク制御のみで実現し,T字分岐の通過については関節角度とトルクの両方の制御を切り替えることで実現します.また,市販のトルクセンサは大きく,衝撃力などに対して弱いため,独自に開発したポリウレタン製の直列弾性アクチュエータ(SEA)を搭載しています.このロボットは、15本以上の曲がりと重力方向の異なる10種類のT字分岐管を滑らかに通過することができ、25kgf(約250N)以上の牽引力を発生させることが可能です.実験では,内径4インチ(約100mm)の水平・垂直のパイプコースを約30m走行することに成功しました.さらに,自走する先頭ロボットにロータリエンコーダ(車輪の回転数を測るためのセンサ)とIMU(加速度センサやジャイロセンサ)を搭載したセンシングユニットを追加装着し,パイプラインの経路図面をコンピュータ上に描くことにも成功しています.

立命館大学では10年以上に亘り数多くの自走式小口径管路走行ロボットの研究を実施してきました.これらの基礎研究から生まれた成果は,プラント点検やガス管点検を目的に複数社の民間企業へも技術移転されており,高い評価を得ています.